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西成での文化人生活の話3(自叙伝048)

西成での文化人生活の話3(自叙伝048)

暇なバイト

 
 
 
新しいビデオ屋でのバイトは本当に楽だった。
 
 
来客は30分に一人くらい。お客さんが一人以上店内にいることは稀だった。
 
 
 
 
ビデオ屋の店員がやることなど、バーコードをピッピとやってお金を受け取り、返却されたビデオを棚に戻すくらいのことで、1時間のうち10分ほどの仕事だった。
 
 
残りの50分は完全な自由時間で、何をしてても誰も文句を言わない。
 
 
 
 
 
 
 

読書

 
 
 
僕はこの時間を最大限に利用していたが、最も集中したのは本を読むことだった。
 
 
 
僕がこの当時熱中していたのが、いかに効率よく最大限に自分のセンスを磨くかと言うことで、本を読むことは濃い密度の情報を受け取るので、効率がいいと思っていた。
 
 
 
家から自転車で行ける距離内に4階建の大きな大阪市立図書館があり、地方の図書館には無いようなマイナーな書籍なども多く、僕の知識欲を刺激していた。
 
 
 
 
2週間に一度この図書館に行くのが僕の大好きな習慣の一つで、毎回新たな本たちとの出会いに興奮していた。
 
 
 
エホバの証人の子供として抑圧されていたものが、好奇心の爆発と言う形で現れていたようだ。
 
 
 
今まで情報から隔離されていた分、情報や知識に対する欲求がものすごく強く、強烈な勢いで全てを吸収していた。
 
 
 
脳みその限界まで情報に浸っていたと思うが、それでも僕の脳みそは全く苦にせず全てを処理していたのだから、この時期の僕の脳の活性化具合はすごかったと思う。
 
 
 
 
 
僕はユングの精神論や哲学的な書や60年代のカウンターカルチャーの本などを好んで読んでいた。
 
 
何かわからないなりに惹かれるものがあって、興味を持って読んでいた。
 
 
興味は持っていたが、実際には何も分かっていなかった。
 
 
だがそれでも、分からないものに触れることで、分かり始めるきっかけにはなっていたと思う。
 
 
 
 
精神的なものは強い興味の対象で、肉体的、物質的なものはダサいと言うような価値観になっていた。
 
 
歪んだもので、自分のガリガリの不健康さや、か弱さをカッコよくオシャレだと思うようになっていた。
 
 
 
 
 
 
 

Gさん

 
 
 
兄の元バンドメンバーのGさんもこのビデオ屋で働いていた。
 
 
 
 
彼はかなり面白い人で、非常に自由に生きており、社会的常識から逸脱したアーティストだった。
 
 
その逸脱具合は結構なもので、彼の飛ばし具合に影響を受けることで、人生の選択肢の幅を広げてもらったような気がする。
 
 
 
 
彼は優れた才能を持つギタリストで、大阪のアンダーグラウンドな実験音楽の領域では多少は知られていた。
 
 
 
 
だが、アンダーグラウンドな実験音楽の世界で生活費を稼ぐのは至難の技で、バイトをして凌いでいる。
 
 
 
 
彼は昼間のシフトに入っていて、夕方のシフトの僕が引き継ぐと言う関係。
 
 
Gさんはビデオ屋での仕事に対してなんの興味もないので、1時間のうちに10分ほどの仕事すらしなかった。
 
 
仕事せずに何をしているかと言うと、彼はただひたすらギターを弾いていた。
 
 
自由にギターが弾ける仕事場というのも素晴らしいが、彼の集中力も素晴らしかった。
 
 
飽きずに毎日毎日延々と作曲作業を続ける。
 
 
 
 
僕が夕方になり店に入ると、Gさんは全く仕事をしておらず、お客さんから返却されたビデオが山になって溜まっている。
 
 
彼はいつも最後の数分で全てのビデオを棚に返却して帰っていくのだが、仕事への興味のなさを潔いほどに表現していることにある種の感動を覚えた。
 
 
 
 
彼は寝坊して開店時間に遅れるなどもしょっちゅうで、だらしなさに関しては社会的に破綻していたのだが、ここでのバイトは彼に対して非常に優しかった。
 
 
店長代理のKさんが彼のいい加減さをカバーしていて、はみ出し者を受け入れる暖かい土壌があった。
 
 
 
 
このビデオ屋フォーラムはこの店長代理のKさんとギタリストのGさん、働いてはいないけどしょっちゅう入り浸っているGさんのガールフレンドの3人である種のコミュニティを形成していた。
 
 
彼らは仲が良く、バイトの時間であろうとなかろうと、店にたむろしていた。
 
 
暖かく親しみ深い、都会の下町ならではのバイト環境だったと思う。
 
 
都会ならではの居心地の良さを堪能していた。
 
 
 
 
 
 
 
つづく。。。
 
 
 
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